東京地方裁判所 平成9年(ワ)2293号 判決 1997年10月22日
原告 三和信用保証株式会社
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 小沢征行
同 秋山泰夫
同 香月裕爾
同 露木琢磨
同 宮本正行
同 吉岡浩一
同 北村康央
右小沢征行訴訟復代理人弁護士 小野孝明
同 安部智也
被告 Y
右訴訟代理人弁護士 横山昭
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録<省略>一の建物について、同<省略>二の土地と共同担保として昭和六二年一〇月八日抵当権設定契約を原因とする別紙登記目録<省略>の抵当権設定登記手続をせよ。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文と同じ。
第二事案の概要
一(争いのない事実)
1 三和銀行(町田支店)は、昭和六二年一〇月八日、被告に対し、被告のアパート建設及び土地の購入資金とするため、五億八〇〇〇万円を左記約定により貸し付けた。
(一) 返済方法 利息は同年一一月から、元本は同七二年一一月から、同九二年一〇月まで毎月七日(休日のときは翌営業日)限り、三七九万五七七五円を分割して支払う。
(二) 利息 年四・九パーセント(一二分の一を月利率とする。金融情勢の変化に従い、被告に通知することなく、一般に行われる程度のものに変更することができる。)
(三) 遅延損害金 年一四パーセント(一年三六五日の日割計算)
(四) 特約 銀行に対する債務の一つでも期限に履行しなかったときは、銀行の通知により、被告は、元利金について期限の利益を失う。
2 別紙物件目録<省略>一の建物(本件建物)は、平成元年三月二六日、完成した。
二 争点(請求原因)
1 原告は、被告との間で、左記契約を締結した。
(一) 保証委託契約
昭和六二年九月八日、被告の三和銀行に対する借入金、利息、その他一切の債務について、被告が原告に対して連帯保証することを委託する。
(二) 土地についての抵当権設定契約
同年一〇月八日、被告の原告に対する右保証委託契約に基づいて生ずる債務を担保するため、別紙物件目録<省略>二の土地(本件土地)について抵当権を設定する。
(三) 本件建物についての追加担保差入契約
同年一〇月八日、本件建物が完成したときは、被告の原告に対する右保証委託契約に基づいて生ずる債務を担保するため、本件建物について抵当権を設定する。
2 原告は、昭和六二年九月八日、被告との保証委託契約に基づき、三和銀行との間で、同銀行に対する被告の債務について連帯保証すると合意した。
三 被告の反論等
1 被告は、左記の経緯により、原告主張の各契約に関する契約書に自ら署名及び押印した。
(一) 被告は、息子のBと共同で、昭和六二年四月初め、三和銀行から融資を受け、地上にマンションを建築する予定で、本件土地を購入し、融資金を担保するため、同銀行のために抵当権を設定し、その登記をした。
(二) 被告は、近隣住民との建築同意交渉、マンション建築請負人の選定、建築確認を得、株式会社栄建との間で建築請負契約を締結し、建築代金二億七〇〇〇万円の融資を申し込んだところ、三和銀行担当者から、融資について原告の保証を要すること及び保証料として一五八一万円を要することを告げられた。
(三) 被告は、三和銀行担当者に対し、約束が違うこと、原告への保証料の支払は利息の脱法的二重取りであること、土地代金の融資から半年以上経る間に事前に知らされておれば、他に融資を求めることもできたことを告げたが、同銀行担当者は、原告の保証なくしては融資をしないとの態度を変えなかった。
(四) 被告は、新学生の入居を見込み、平成元年三月中にマンションを完成することを予定しており、着工を急ぐ必要があり、また、栄建からも、解約するのであれば、損害賠償請求をする意向を示され、他の取引銀行に融資を申し込んだものの、稟議を要し、一週間や一〇日で融資を決定することは無理であると拒否され、三和銀行の用意した原告主張の各契約書類に署名及び押印した。
2 被告は、右経緯の下で、原告と全く交渉せず、内容を告知されてもおらず、原告は契約当事者たりえず、原告に対して保証委託をしたこともなく、原告との保証委託契約は効力を生じない。
3 仮に、原告と被告間に保証委託契約が締結されたと認められるとしても、前記のとおり、被告の急迫な事情の下に締結されたもので、被告は、平成九年六月四日(第二回口頭弁論期日)、原告に対し、右契約を取り消すとの意思表示をした。
4 右いずれの主張も認められないとしても、三和銀行は国策による公定歩合による利息の外、保証料名目で一五八一万四七二〇円を取得し、同銀行と原告は実体は同一と見るべきで、被告との保証委託契約は、保証に名を籍りて二重に利息を取るもので、庶民を欺く暴利行為として公序良俗に違反する。
第三争点に対する当裁判所の判断
一 成立に争いのない甲第一号証から第五号証までによれば、争点である請求原因事実は、いずれも認めることができる。
二 被告は、専ら、三和銀行の担当者と交渉し、原告主張の各契約書に署名及び押印したに過ぎないとして、原告との間の各契約の締結を否認する(当事者適格を疑問にするかのごとくであるが、単純な法律の誤解に基づくもので、単に契約の成立を争うものと解せられる。)が、金融機関から融資を受ける場合、これについての保証会社に対する保証委託契約、保証会社の債務者に対する求償金債権を担保するための抵当権設定契約等の手続が金融機関の担当者の手によって進められることは公知の事実であり、金融機関の担当者は保証会社の使者として債務者との契約手続を遂行するものと解せられる。
本件においても、原告と被告間の各契約が三和銀行の担当者によって手続を進められたことは、被告も自認するところであり、これによる契約の成立について疑問を抱く余地はなく、前項において認定したとおり、原告と被告間に各契約が締結されたと認められる。
三 被告は、また、その主張の急迫の事情の下に締結されたことを理由に、原告との間の各契約について取消を主張する。
1 被告が、昭和六二年四月、本件土地を購入し、これについて三和銀行から融資を受け、同銀行のために同土地に抵当権が設定されたことが甲第四号証及び弁論の全趣旨により認められる。しかして、被告は、本件建物の建築代金の融資に際しては、前記認定のとおり、原告の保証の下に同銀行から融資を受けた。
2 金融機関から融資を受ける者にとって、金融機関との間に抵当権の設定等をするのと、保証会社による保証を受けて融資を受けるのとを比較すると、保証会社に対する求償金債務のために抵当権設定を要するのが通常であるため、後者の方法による場合、保証料相当分が余分の負担となることは明らかである。被告は、本件土地の購入について三和銀行に対する抵当権設定のみで融資を受けることができたのであって、右事実から、本件建物の建築資金の融資についても、保証会社の保証を要しないで金融機関のみから融資を得ることも必ずしも不可能ではなかったと推認することができる。そのような被告にとって、本件土地の購入については金融機関自ら担保の提供を求めて融資しながら、本件建物の建築については融資を決定する直前になって保証会社の保証を得て融資を受けることを求められたのであれば、原告に対する保証料相当額(被告の主張によれば、本件においては、一五八一万円にも及ぶ。)の余分な負担を強いられた感を抱くのも無理からぬことである。しかしながら、被告主張の事情は、そのために原告との間の契約の効力を左右するに足りる事情ではない。契約の取消の主張は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。
四 次に、被告は、原告による保証料の取得が公序良俗違反に当たると主張する。
1 金融機関が保証会社に出資し、人員を派遣する例があることは公知の事実であり、三和銀行と原告との間にも、一定の資本関係及び出向等の人事関係があることは推認に難くない。
2 しかしながら、金融機関が融資するに当たり、担保の管理等を自ら出資した他の会社に委ねること等は格別違法の問題を生ずることはなく、本件におけるように、保証会社の保証を得させて融資を受けさせることによって融資を受ける者に余分の負担が生じるからと言って、公序良俗違反の問題を生じることもない。この点の被告の主張も理由がない。
五 以上のとおり、原告の請求は、すべて理由があり、正当として認容すべきである。
(裁判官 江見弘武)
<以下省略>